プロの視点から、不動産にまつわる
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とにかく人手が不足している。2017年の人手不足による倒産は過去最高の114件、2018年も過去最高を更新する勢い。優秀な社員を集められるかどうかは、まさに企業の生命線となっている。各社は賃上げや労働時間の削減、さらには福利厚生の充実で人材確保に取り組んでいるが、その福利厚生の一環として、いま注目を集めているのが社員寮だ。なぜ、社員寮なのか、その魅力を追った。
所沢市にある不動産会社、北斗アセットマネジメント株式会社(現:株式会社北斗不動産ホールディングス)の代表取締役上田真一氏(以下、上田氏)は、「最近どの経営者と会話をしても必ず出てくる話題が人手不足。どの会社でも人が足りない、新たに社員を募集しても良い人材が採用できない、という悩みを抱えている」という。一体なぜ、このような事態に陥っているのか。それは単純に働く人が激減しているからだ。以下のグラフ【図1】は生産年齢人口(15~65歳の人口)の推移とその予測を示したグラフだ。
また、少なくなった人材の中でも、優秀な人材の多くは大手企業へ就職した。その結果、中小・零細企業での人材不足は危機的な状況に陥っているのである。帝国データバンクによると2017年度の人手不足による倒産は114 件と過去最高に。そして2018年度は上半期だけで78件と過去最高のペースとなっている。
そのような事業環境の中、中小・零細企業が優秀な人材を確保するのは困難を極める。そこで、なんとか優秀な人材を確保しようと多くの企業が注目し力を入れるのが社員寮の新設や拡充だ。厚生労働省によると社員寮や独身寮があると回答した企業は全体の35.0%【図2】。意外かもしれないが、中小企業(従業員30~99人)でも4社に1社が社員寮を持ち、さらにそのうち3社に1社は拡充、新設しているのだ。「社員寮に力を入れる企業はどんどん増えている。今後は単純に社員寮があれば良いということではなく、より便利で快適、そしてもちろん清潔で綺麗な社員寮の有無が採用で重要になってくる(上田氏)」
なぜこれほどまでに社員寮が支持されるのか。それは、従業員のメリットが大きいためだ【図3】。最大のメリットは会社の近くに安く住めること。「家賃は毎月支払う費用。なるべく安く抑えたいが、安い物件は築年数が古かったり、駅から遠かったりする。女性の場合はセキュリティも大事になる。ただ、なかなか安くて良い物件が見つからず、高い家賃負担に苦労している若い社員は多い(上田氏)」
さらに、社員寮は住宅補助と違い給与とみなされない( 一定条件に該当する場合)。そのため“課税されない”、“社会保険料が抑えられる” といったメリットもあるのだ。ほかにも同僚と、より仲良くなれるというのも大きな魅力だ。
会社にとっても、採用力強化に繋がる制度でありながら、社員寮関連費用は広く経費計上できるほか、社員寮という不動産の資産形成に同時に取り組むことができる。また、部屋や駐車場が空いていれば、社外の人に貸すことで家賃収入を得る、いわゆる不動産賃貸業に参入できるというメリットもある。「不動産賃貸業は人手がそれほどかからず利益率が高い。不動産賃貸業を兼ねて大きめの社員寮を探す企業も多い(上田氏)」
さらに、会社に対する従業員の帰属意識が高まるというメリットもある。社員寮は会社と従業員、双方に大きな利益がある制度なのだ。
もちろん、デメリットもある。従業員にとっては仕事とプライベートを分けるのが難しくなったり、好きな場所に住めなかったりする点だ。また、会社にとっては不動産を保有することになるため、維持費や修繕費、運営費、減価償却費がかかることになる。ただ、これら費用は全て経費計上できるほか、減価償却をうまく活用することで節税対策も同時に計画することが可能だ。
では、社員寮を選ぶ際に何に気を付ければ良いのか。「社員寮探しは対象者、場所、そして規模(部屋数)をきちんと決めることから始まります(上田氏)」対象者を単身者向けにするのか、それとも家族向けにするのかといったことを決める必要がある。さらに、場所も重要だ。「通勤のしやすさで会社の近隣、または従業員の利便性を考え、社員寮から会社までは30分~1時間程度、会社近くではなく便利な駅周辺で探される方も多いですね(上田氏)」十分な部屋数を確保することも大事になってくる。全ての希望者が入居できないとなると不平不満を生む原因となってしまうこともあるためだ。
また、「新たに建築するか、中古を購入するかはその会社によって判断が異なる」と上田氏は言う。「新築すれば間取りや機能など理想の社員寮ができますが、そのぶん投資費用は大きくなります。中古を購入すると自由度は低いですが、費用を抑えられるうえに早く減価償却できるため節税効果も高まります(上田氏)」
これを機会に社員寮の新設・拡充を検討してみてはいかがだろうか。
最近、1階を事務所、2階以上を社員寮や社宅とするケースも増えてきた。特に多いのが事務所と社員寮を別々に借りていた企業による購入だ。物件を購入することで資産形成をしつつ、同時に2つの物件を1つに集約することでコストや運営の手間も削減することができる。
また、上階を社員寮ではなく経営者の自宅とするケースもある。会社が保有し社宅にすることで自宅に係る費用を経費計上させることが可能なためだ。会社が保有すれば借入金に係る金利や外壁塗装などのリフォーム費用、さらには不動産取得税や仲介手数料も経費として計上が可能だ。節税効果が大きいため、特に零細企業で採用されていることが多い手法だ。