所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
多くの人は災害など不測の事態が起きたとき、冷静な行動ができなくなります。だからこそ、日頃から万が一に備え訓練する必要があるのです。所沢市の町内会ごとにある自主防災会はそのために作られ、地域住民の暮らしを守っています。そんな市内の各自主防災会を統括しているのが所沢市自主防災会連合会。今回は会長の齋藤操(さいとうみさお)さんに、日々の取り組みや防災の視点から安心して住み続けられる街とは何かを取材させていただきました。
齋藤 操(さいとう みさお)さん
1941年所沢市荒幡生まれ。1960年所沢市消防本部(現・埼玉西部消防組合)に就職。1997年から5年間にわたり消防長を務める。1995年阪神淡路大震災の被災地を視察する中で防災組織の重要性を知り、地域住民が自ら減災する自主防災会を所沢市の各地区に設置することを提唱。2016年には「所沢市自主防災会連合会」の会長に就任し、各自治会の防災組織の連携に尽力。そのほか、荒幡町内会会長や地域防犯推進員などを務め、現在も地域の安全に寄与し続けている。
――齋藤さんは生まれも育ちも荒幡で元消防士だそうですね。
そうです。スポーツが好きで体力に自信があったので、それを活かして人助けができる仕事がしたいという思いから、高校卒業と同時に所沢市の消防職員になりました。定年を迎えるまで42年勤務し、その半分は予防行政担当として防火安全に勤しみました。予防行政の主な業務は火災を予防するために学校や病院、百貨店などに対する防火管理の指導や発火性・引火性物品の許認可事務、そして発生した火災の損害と原因調査などをおこないます。当時は日々の業務を通して、予防の大切さが骨身に染みていきました。
――所沢市に自主防災会の立ち上げを働きかけたきっかけは?
1995年に阪神淡路大震災が発生した際、私は現地を視察しました。そこでわかったのが、自主防災会がある地区は延焼火災(※)が発生しておらず、建物の倒壊で命を落とした人もいなかったということ。日頃から定期的に実施していた防災訓練の積み重ねが実を結んだ結果だったと知りました。
所沢市は幸い災害が少ない街です。1923年の関東大震災以降、ほとんど安全に過ごせています。しかし、大地震はいつ発生してもおかしくありません。そうなったときに自身や大切な人の命を守るため、各々が対策しておく必要があると考え、所沢市の各地区に自主防災会の設置を働きかけました。大きな震災を目の当たりにした直後だったせいか多くの方に理解いただけて、翌年には100を超える自主防災会が設立。現在その数は215にもなっています。
※延焼火災:火事が火元からほかの建物などに燃え広がること
――荒幡地区の自主防災会は、どのように体制づくりをされたのですか?
私は64歳のときに、町内会の役員を仰せつかりました。そこから自主防災会に参加し、有事の際に対応できる体制づくりの担当になったのです。しかし私はそれまで消防は一生懸命やってきたものの、体制づくりは未経験。そこで防災小委員会を立ち上げ、先進地域である坂戸市鶴舞地区へ視察に行き、教えてもらったことを参考にしながら整備していきました。
――具体的におこなった取り組みは何ですか?
最初に取り組んだのが、荒幡が取り組むべきだと感じた7つの課題の洗い出しです。
7つの課題とその内容
1)自衛消防隊の結成
災害発生時、同時多発火災が起こると消防署や消防団の消火活動は期待できないことから自分たちで街を守る自衛消防隊を結成する
2)発災直後の安否確認と情報伝達
安否確認カードを隣組(※)ごとに作成・管理。発災時は防災リーダーが安否確認し必要な情報を伝達する
※隣組:町内会に属した隣近所の10戸前後の小集団
3)住民の防災意識の高揚
防災訓練などの機会を通して、防災委員長などが防災の取り組みを指導する
4)防災備蓄倉庫の点検と資機材取り扱いの習熟
防災備蓄品の劣化などを随時点検。資機材が稼働可能か確認し、取り扱い方を適宜おさらいしておく
5)町内備蓄品の整備
防災備蓄は所沢市でも備えているが、町内会でも備えて随時、消費期限などをチェックする(2022年はアレルギー除去した非常食の追加備蓄をおこなった)
6)自主防災訓練の充実
災害時の対応、避難方法などを体に覚えさせる
7)災害弱者に対する支援体制の確立
安否確認カードにおいて要支援者には印をつけておき、手を差し伸べる体制を構築する
これらの項目を定め、体制を整えるのには約2年ほどかかりました。加えて、一時避難場所に行く前に隣組単位で安否確認する「0次避難場所」を決め、場所を指し示す看板なども制作しています。これは少人数で安否確認することで、要救助者の把握などに要する時間を短縮することが目的です。
――防災で一番大切なことは何ですか?
安否確認です。被害の範囲や規模、要救助者の確認ができないと、助かる命も助けられません。隣組という枠組みを超えてご近所付き合いし、顔見知りになっておくことで安否確認がスムーズになります。なのでそういった観点からも、荒幡の町内会では5月の音楽祭、8月の夏祭り、9月の防災訓練、敬老会、運動会、11月の七つのお祝いなど、たくさんの行事を通して交流しているのです。そうすることで、いざとなったとき「●●さんはどうしただろう?」と、互いに気にかけ合う関係が作れ、一人でも多くの命を守ることに繋がります。
――防災意識を地域に浸透させる上で、大変だったことは何ですか?
町内会の中でも、なかなか防災の必要性を理解してもらえなかったことです。前述の通り、防災において安否確認が一番大事だと考えているため、私が真っ先に作ろうとしたのは、隣組ごとの住民名簿が記載されている安否確認カードでした。ところが「いちいち作らなくても隣組の10軒くらいなら、声をかけ合えるよ」という声があったのです。しかし私は元消防士です。これまで様々な災害を見てきて、人はいざとなったときは頭が真っ白になり、いつも通りの行動ができなくなることを知っています。火災が発生しているというのに、気が動転して枕一つだけ持って避難する人も見てきました。大事なのは普段から備えておくこと。気が動転していても、手元に段取りを書いた用紙があれば動けます。
だからこそ必要なのが安否確認カードなのです。日頃から訓練の中で活用する癖をつけておけば、いざとなったとき動きやすくなります。私は「訓練は本番のつもりで。本番は訓練のつもりで」という格言を持って、安否確認カードの作成に反対する方たちを説得しました。幸い理解を得られたので、本当によかったです。
――現在、街の防災を進める上で抱えている課題はありますか?
これは全国的な課題ですが、町内会の会員数が徐々に減りつつあることです。高齢者が「病気になって役員ができない」といった理由で退会するケースが少なくないのですが、町内会の名簿をもとに安否確認カードを作るため、町内会を退会してしまうとそこに名前が載らなくなります。そうすると体が不自由だったり、高齢だったりと一番手を差し伸べなければならない人の安否を、いざというときに確認できなくなるのです。なので町内会に加入していない方にも手を差し伸べられる仕組みを作っています。「加入していない人に手を差し伸べるの?」という方もいるでしょうが、私たちだって、もし旅先などで被災したらその地区の方に助けてもらいますよね。それと同じ。大事なのは助け合いの心なのです。
会員数の減少には、若い世帯があまり加入しないという理由もあります。町内会に入っても利点がないと思っている方が少なくないんですね。しかし街灯を整備したり、子どもたちの登下校を見守ったり、町内会が果たしている役割は結構あります。本来、安心して住み続ける街はみんなで作るものです。町内会を通じて隣近所と交流し、地域みんなで助け合える体制づくりに参加してもらえたらと思います。
――齋藤さんが考える「安心して住み続けられる街」とは?
防災、防犯、環境の良さが行き届いている街ですね。日頃から一人ひとりが防災意識を持ち、自主防災会は自衛消防隊などの組織や防災備蓄をしっかりと整備している。登下校の見守りや防犯パトロールで、いつも誰かがあちこちに目を配っている。夜でも安心して歩けるよう、街灯がきちんと設置されている。そして何より、隣近所と顔見知りで互いに気にかけられる環境こそが、「安心して住み続けられる街」なのではないでしょうか。
――最後に、今後の目標を教えてください。
荒幡地区の行事をより充実させ、地域の方たちと連帯感を持って暮らせるようにしたいです。荒幡は私が生まれ育った地域で、愛着があります。現役時代は市民のために消防行政に取り組んできました。定年退職してからは町内会や自主防災会の活動を通して、皆さんの暮らしを守っているつもりです。私にとって地域に貢献することは生きがいです。これからも荒幡地区と、ここで暮らす方々の安心・安全を追求していきたいと思っています。
-インタビューを終えて-
子どもの頃は学校で定期的に参加していた防災訓練。大人になってからは、なかなか参加する機会がない、という方は少なくないでしょう。そんなとき、地元の自主防災会の防災訓練に参加すれば、その地に合った防災方法を学べ、有事の際にはきっと役に立ちます。
防災に精通する齋藤さんに「私たちが日頃からできる防災対策は何か」と尋ねると、「3日分程度の水や食料を自宅に用意しておくこと」という答えが返ってきました。大災害が発生しても、全ての住宅が潰れるわけではありません。近年は1時間50ミリを超える雨が降ることが少なくありませんが、所沢市近郊において家屋が流されるほどの災害はほとんど起きていないのです。また避難所は1〜2日程度過ごす分には良いのですが、長期間になればなるほどどうしても劣悪な環境になりがちです。そうなると自宅で安全を確保できるならば、自宅で避難する「在宅避難」も一つの選択肢として考えておいた方が良いとのこと。有事に備え、自分たちの水や食料は自分たちで備えておくことも、大事な「自主防災」の一つだと感じました。
災害が起きていないときこそ、自身の備えを見直すチャンスです。今回の「ほくとと」を機に、ご自身やご家族の防災意識と備蓄品を見直してみてはいかがでしょうか。私たちも地域に根ざした企業としてできることを、いま一度見直そうと思います。