所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
高齢になるにつれ、人とのコミュニケーションが希薄になり、孤独を感じながら暮らす方が増えつつある昨今。生きがいまでを見失う方もいる中、高齢者の健康保持を目的に、所沢市内でスポーツや趣味を通じた活動をおこないながら安心・安全な街づくりに貢献している団体があります。それが「所沢市長生(ちょうせい)クラブ連合会」です。この会は世間的に言えば「老人クラブ」。しかし会長の薦田健一(こもだけんいち)さんは「私たちは老人クラブとは呼びません。自分たちのことを老人だと思っていませんから」と快活に笑います。確かにその活動内容は、老人クラブのイメージより活発なもの。どのような想いで活動されているのかを薦田さんに伺いました。
薦田 健一(こもだ けんいち)さん
1940年長崎県佐世保市生まれ。大学卒業後、当時百貨店を母体としていた流通系グループ会社に就職。本社の人事部からスタートし、販売促進部、商品部を経て関連会社役員を務め退任。所沢市には1974年より居を構え約半世紀。民生委員をはじめ地元の町内会長などを務める。現在は所沢市長生クラブ連合会会長とフラワー・シニアクラブ会長を兼務するなど、精力的により良い街づくりに取り組んでいる。
――薦田さんの経歴を教えてください。
私は長崎県佐世保市で生まれました。当時、佐世保市は軍港として知られていましたが、戦争で全部焼かれてしまって。母の実家がある愛媛県に引っ越し、高校卒業まで過ごしました。東京の大学を卒業した頃、世は流通革命の時代。私は百貨店を母体とする流通系グループ会社に就職しました。その後、私が56歳のときに妻がブライダル関連の会社を立ち上げ、「これは伸びる事業だ」と確信した私は、会社を退職して参画。いまは長生クラブの活動がメインで、たまに手伝うだけですが、妻は現役で事業運営しています。
所沢には1974年、戸建て住宅地「西武フラワーヒル」の分譲販売が始まったのを機に住み始めました。ここでは本当にいろいろな方が暮らしています。当時は高度経済成長期だったため、北海道から九州まで全国から人が集まっていて、勤め先や職種も様々。いまも町内会や、町内の長生クラブ「フラワー・シニアクラブ」で交流していますが、話していて面白いんですよ。
――長生クラブとはどのような集まりですか?
いわゆる老人クラブですね。65歳のときに仕事の退職と同時に町内会長も辞したタイミングで入会を誘われて、その存在をはじめて知りました。ただ、最初は断ったんです。「なんで俺が老人クラブに入らないといけないんだ!?俺は老人じゃない!」って(笑)。いまもそうですが、気持ちは人一倍若かったですからね。
それに老人クラブは、「集まってお茶を飲む会」というイメージが当時はありました。なので町内会のゴルフ部の会長をやっていて、その活動に夢中だった私としてはしっくりこなかったんです。けれど諸先輩方の誘いを無碍にできず、渋々入会。ただし「従来の老人クラブとは違う活動がしたい!」と宣言しました。
入会後は、さまざまなイベントを企画・参加してきましたが、中でも周辺地域にある史跡や神社仏閣を巡る「歴史散歩」の会は、いまもなお、毎回楽しく参加しています。その後、所沢市全体の長生クラブを取りまとめている所沢市長生クラブ連合会にも携わるようになりました。
――所沢市長生クラブ連合会の活動内容を教えてください。
大きく3つに分かれます。一つ目が『奉仕活動』。小学校の通学路を見守ったり、交通安全運動をおこなったりするほか、共同募金、地域の道路や公園の清掃などもおこなっています。
二つ目が『友愛活動』。高齢者同士は”助け合いが大事”という考えのもと、体調の悪い方や病弱な方、身体に支障のある方などの手助けや心身に不調のある方の見守り・お手伝いなどをできる範囲でおこなっています。会員や会員が紹介する方のお宅を訪問して話し相手になったり、困りごとの相談にのったり、一緒にお食事をすることもあります。
三つ目が『健康に関する活動』。食生活講習会や介護保険講習会、健康体操、ウォーキング、社交ダンス、女性コーラス、卓球などを日々楽しんでいます。
また並行して、所沢市や他の公共団体との共催で、さまざまな行事を開催しています。毎年3・10月はグラウンドゴルフ大会、7月は演芸大会や囲碁将棋大会、9月はスポーツ大会、12月は創作展示会など。参加は強制ではなく、ご自身が興味を持ったものを楽しんでもらっています。コロナ禍では開催を控えた行事もありますが、状況が落ち着いたら少しずつ復活させていくつもりです。
――所沢市内にはどのくらいの長生クラブがあるのですか?
現在は67クラブ、会員が約4,300人です。しかし一番多いときは、107クラブに8,122人の会員がいたんですよ。所沢市に限った話ではありませんが近年、新規会員が減っているだけでなく、リーダー役がいなくなって解散するケースも増えています。そうすると横の繋がりがなくなってしまうので、高齢者が孤独に暮らしていないかが心配になります。と同時に、昨今は新規会員を集める難しさも痛感しています。
――全国的に高齢者は増えているのに、なぜ新規会員が増えないのでしょうか?
一つは働いている人が多いからでしょう。私たちの頃は早い人は55歳で定年退職して、長く働いても60歳程度まで。しかし最近は75歳まで働く人が少なくありませんし、働く女性も増えました。そうなると会員の平均年齢も高くなり、所沢市長生クラブ連合会は現在、全体平均年齢が79歳程度。80歳を超えているクラブも少なくありません。私が加入した頃は70代が一番多く次が60代でしたが、いまは80代が一番多く、70代、60代と続きます。
なおコロナ禍ではほとんどの行事が開催できず、2年間で600名もの会員数が減りました。これは通年の20倍のペースです。「行事が何もないから」という理由で退会する人もいましたが、調べてみると、人と人との交流機会が減ったことで認知症になったり、初期の認知症が高度の認知症へ進行して、入院を余儀なくされたために退会をされた方が多かったのです。心の病にかかった方もいたと聞いています。人は家から出ないと、足腰が弱るだけでなく心もダメージを受けるのです。
また新規会員が増えない要因として、そもそも知名度が低いという課題もあります。長生クラブとは、何を目的に何をおこなってる組織なのかが市民に知られていないんですね。その一方で、長生クラブのような高齢者のグループ活動がないと、健康寿命を短くしてしまう懸念もあります。長生クラブの活動があるからこそ「外出をする」「人と交流する」という方も多く、こうした動きが高齢者の健康維持に繋がっているのです。
――所沢市長生クラブ連合会のモットーの一つ「助け合いが地域を守る」とは、どういう意味合いでしょうか?
高齢者は配偶者を亡くしていたり、子どもが別の場所に所帯を持っていたりして、一人で暮らしている場合が少なくありません。そうなると体調に異変があっても、誰かに気づいてもらうのが難しくなります。社会福祉協議会のケアマネージャーがそのような方をフォローしているとは思いますが、あくまで日常の一部分です。圧倒的に彼らがいない時間の方が多いため、一人暮らしの高齢者に異変が起きた場合、誰かに気づいてもらうまでのタイムラグが長くなります。だからこそ万が一に備えるためには、常日頃から“誰かの存在”を感じながら暮らせるよう、地域の人たち同士で横の繋がりを持つことが大事。互いに助け合い、孤独をなくしていくのが私たちの目標の一つです。
また、加えて重要視しているのが健康寿命を延ばすこと。地域で自立して暮らし続けるためには、心身ともに健康である必要があります。私たちの活動は健康保持を一番の目的にしていますので、ぜひ一人でも多くの方に入会していただき、地域のみなさんが1日でも長く健康でいられることを目指していきたいですね。
――健康寿命を延ばす点では、行政も期待しているそうですね。
高齢者が増えたいま、行政の負担は介護医療費を始めいろいろな面で増えています。昨今の平均寿命と健康寿命の差は約10歳で、これは多くの人が亡くなるまで10年間ほど、医療や介護を継続的に受けるということです。つまり健康寿命を延ばせば、この治療や介護の期間を短くでき、介護医療費の削減にも貢献できます。今後3年間は、所沢市の高齢者の健康寿命を延ばすことを目標に活動していくつもりです。
――具体的に実施している取り組みはありますか?
所沢市長生クラブ連合会の活動は、運動を多く含んでいます。年に1回開催している体育大会はいつも大盛況で、2019年は約1,100名も集まりました。各地区から選手や応援団が参加するものなのですが、近年はコロナ禍の影響で開催できていません。今年は何らかの形で開催したいので、現在調整中です。その他、運動以外の活動もいろいろあります。中でも多くの方が楽しみにしているのが、所沢市民文化センターミューズで年に1度開催している演芸大会です。発表者は一般公募もしており、踊りや合唱などを披露してくれています。皆さん、ホールに立って成果を披露するのがくすぐったくて嬉しいようです。
また前述した孤独をなくすための活動としては、「ランチの会」を実施しています。月2回、一人暮らしの方を集会所に呼んで、皆でお弁当を食べる会をしているのです。女性スタッフが手作りで弁当を作ってくれて、毎回50〜60名集まります。やはりみんなでワイワイ食事するのは楽しいですからね。コロナ禍になってからは、スタッフが作ったお弁当を各家庭に配達していますが、こちらも楽しみにしている会員が多いんです。誰かが自分のために食事を作ってくれるというだけで嬉しいのだと思います。
――所沢市長生クラブ連合会の今後の抱負を教えてください。
やはり一番は新規会員を増やすことです。そして平均年齢を若くしていければと思っています。そのためには私たちが何をやっているのかを知ってもらう必要があります。PRの方法を何か考えないといけませんね。
その先で目指しているのは、地域になくてはならない団体の一つになること。いわゆる老人クラブは、他の地域ではあまり重要視されていない場合が多いと聞きます。そうではなく、地域の安全と人々の暮らしを守る一員として、私たちが先頭に立って貢献していけるようになりたいです。それが高齢者の健康寿命を延ばすことにも繋がると信じているからです。
お問い合わせ先
所沢市長生クラブ連合会
〒359-1112 埼玉県所沢市泉町1861-1 所沢市こどもと福祉の未来館3階
電話:04-2925-0041
加入希望者は上記までご連絡ください。あなたがお住まいの地区の長生クラブをご紹介いたします。
-インタビューを終えて-
人が幸せに生きることにおいて、健康であることは必須条件と言っても過言ではありません。そんな中、認知症の予防において「社会参加」が有用という説があります。また「社会的孤立」をしてしまうと、言語流暢性や記憶力が低下するという説もあるそうです。「社会的孤立」をしないために「社会参加する」という意味でも、長生クラブは高齢者にとって健康寿命を延ばす場として適しているように感じました。
長生クラブは、日々の楽しみに出会い、誰かと笑い合う場です。それでいて、暮らしの中で互いを気にかけ合う人を増やす機会でもあります。暮らしにあと少し彩りや安心がほしい方は、ぜひ問い合わせてみてください。きっといま以上に笑顔が増えるはずです。
今回の「ほくとと」が長生クラブを知る機会になり、また地域の皆様が健康と安心を促進できたら何よりです。私たちも地域に根ざした企業としてどんな支援ができるかを考え、行動し続けたいと思います。